幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形

「血を吸う人形」半裁ポスター
半裁ポスター。小林夕岐子さんはイラストです。

公開年 脚本 監督 出演者
1970年 小川 英
長野 洋
山本迪夫 松尾嘉代・小林夕岐子・中尾彬・
南風洋子・中村敦夫・宇佐美淳也

小林夕岐子さんなくしては成立し得えなかったと断言できる、異色のホラー映画。本作のヒットにより、続いて『血を吸う眼』『血を吸う薔薇』も制作されました。シリーズ第1作の本作は、日本の風土において、バタ臭くもなく日本の土着的なものでもない、全く新しいイメージの女吸血鬼を創り出しました。文字通り人形のような美貌の小林夕岐子さんが演じる『血を吸う人形』、実に言い得て妙なネーミングです。

上映時間は71分という割と短い作品です。以下に、ストーリーを紹介しておきます(1〜5)。



半年ぶりで海外出張から帰った佐川和彦(中村敦夫)は、恋人・野々村夕子(小林夕岐子)に逢うために蓼科の洋館を訪れた。そこには、夕子の母・志津(南風洋子)と、耳と口が不自由な下男・源蔵(高品格)が住んでいた。和彦は志津から、夕子は半月ほど前に交通事故で亡くなったことを告げられる。夕子の遺影を目にして、愕然とする和彦。

「信じられません・・・信じられませんよ僕は!・・・僕がアメリカに発つ前、あんなに元気だったのに・・・」

その日、屋敷に泊まることにした和彦。寝室で物思いに沈んでいると、どこからか女のすすり泣くような声が聞こえて来る。声のする部屋を鍵穴から覗いてみると、椅子に腰掛けているネグリジェ姿の女の後ろ姿が見えた。いったん目を離し、もう一度覗いてみると、女の姿はなかった。思い切って部屋の中に入る和彦。

「誰です。なぜ隠れたりする?」

ふと、洋服ダンスに目が留まり、扉を開けると、何と中には死んだはずの夕子の姿が!生気のない青白い顔をした夕子が、和彦の方に歩み寄る。恐れおののく和彦は突然何者かに殴られ、気を失う。そこに浮かび上がる夕子の顔。だが、我に返った和彦の目の前にいたのは志津と源蔵だった。

寝室に戻った和彦だが、またあの泣き声が聞こえてくる。鳥が一斉に飛び立つ音に驚いて窓の外を見ると、夕子が墓の方へ走っていく様子が見えた。思わず外へ飛び出し、夕子の墓に着いた和彦が振り返ると、そこには確かにあの夕子が立っている!驚き半分、喜び半分で駆け寄る和彦。

「夕子!・・・君は、やっぱり生きていたんだね」

夕子の手を取る和彦だが、その手は氷のように冷たい。

「冷たい・・・こんなに冷え切って・・・。君、どうしてこんな、君が死んだなんて嘘を。分からない事ばかりだ。さあ、話してくれ。何がいったい君を」

かすかに夕子が声を発する。

「お願い、私を殺して・・・」

思いがけない彼女の言葉に戸惑う和彦。夕子は懇願するような表情で続ける。

「お願い、私を殺して・・・」

和彦は居たたまれなくなり、思わず夕子を抱きしめる。

「夕子、君は病気なんだね。だからお母さんも、僕に会わせまいとしたんだね。いいよ、もう泣かないでいい。きっと僕が元どおりの夕子に・・・」


和彦の腕の中でうつむいていた夕子が顔を上げると、その目は金色に輝き、血まみれになった右手を振り上げる。そして和彦の背後からナイフを突き立てた。



その数日後の朝、和彦の妹・圭子(松尾嘉代)は、和彦が殺されるという不吉な夢で目を覚ました。その日は恋人の高木弘(中尾彬)とドライブの予定だったが、夢のことを気にした圭子の頼みで、二人は夕子の屋敷を訪ねることにする。

訪ねてきた二人に対して、志津は、和彦は4日前に帰ったと答える。その日、夕子の墓参りをした二人は、そこで和彦のカフスボタンを発見。不信を抱いた二人は、車の故障にかこつけて屋敷に泊めてもらうことにする。

その夜も、不思議な女の泣き声が響く。圭子がひとり寝室に戻って、後ろ手にドアを閉めるとその背後にただならぬ気配が。振り返ると、そこにはネグリジェ姿の夕子が潜んでいた!不敵な笑みを浮かべて圭子に迫る夕子。逃げ出そうとした圭子が背後にあった電気スタンドを倒し、その光に一瞬ひるむ夕子。照らされた夕子彼女の右手は血まみれだ。何とかその場を逃れた圭子だったが、志津は彼女の話に取り合ってはくれなかった。



翌朝、圭子と高木は屋敷を出発し、町役場の戸籍係で夕子のことを尋ねた。20何年か前、野々村家に強盗が入り、志津と源蔵以外の家人を皆殺しにしていた。志津はその強盗に強姦され、やがて生まれたのが夕子だった。しかし、志津はその犯人の事については口をつぐんでいるのだという。

次に二人は、夕子の死亡診断書を書いた医師・山口(宇佐美淳也)を訪ねた。山口によれば、夕子は内臓破裂で死んでおり、外傷は少なく顔も奇麗だったが、肩の骨がぐしゃぐしゃに砕けていたという。圭子が、屋敷で遭遇した夕子の右腕も血まみれだった、と山口に訴えるが、一笑に付されてしまう。



夕子は生きている、そして和彦もまだ屋敷にいる、との疑いを捨て切れない圭子は一人で屋敷に戻るが、志津によって寝室に監禁されてしまう。そこに山口が現われ、彼女は鎮痛剤注射を打たれて気を失ってしまう。一方、高木は夕子の遺体を土葬したという男(二見忠男)に会い、その男に金を渡して墓を掘り起こしてもらう。しかし、棺の中から飛び出したのは人形だった。男は驚いて逃げ出すが、そこに夕子が現われ、男は喉を切り裂かれて殺される。夕子の姿を追って、高木も屋敷に駆けつける。

屋敷で志津を問い詰める高木。志津もとうとう真実を語り始めた。全ての発端は、不浄の子、人殺しの子と散々蔑まれた夕子が、ようやくつかんだ幸せを前に交通事故で瀕死の重傷を負ってしまったことから始まる。生死の瀬戸際、ベッドで苦しむ夕子の姿を回想する志津。

「私、死にたくない・・・やっと、・・・やっと幸せを掴もうとしたのに・・・。イヤよ、イヤ!死ぬなんてイヤよ・・・!」

「佐川さんはどこ?・・・佐川さんに会わせて・・・!」

そんな夕子を不憫に思った志津は、止むに止まれず、夕子に催眠術をかけてもらって死を凍結させたのだった。しかし、肉体は蘇ったものの、夕子は暗闇と血を求める悪魔となってしまった。

「あの子はそれでも、ときどき昔の夕子に戻ります。そして、私を殺して、と泣くのです・・・」

高木は、その催眠術をかけたのは誰なのかと志津に詰め寄る。そこに姿を見せる山口。実は、20年前の強盗殺人の犯人も、夕子に催眠術をかけたのも山口であった。志津と高木を前に、山口は真相を語り始めた。

「・・・この人は、私の許婚だった。だが、戦争が全てをぶち壊した。家族をすべて失い、この人が私を待たずに結婚したのを知ったとき・・・そうだ、殺人犯人はこの私なんだよ。・・・だが、私はこの人だけは撃てなかった。その後、自殺まで図ったこの人が結局何も語ろうとせず子供を生んだとき、私は町に住みつき、この親子を見守る決心をした。分かったかね、夕子は私の娘なんだよ」



その頃、気を失っていた圭子が目を覚ますと、そこは地下室だった。隣の部屋に入ってみた圭子は、そこでベッドに寝ている夕子を発見する。ベッドの前には、後ろ向きに椅子に座っている兄・和彦の姿が。しかしそれは既に事切れて醜く腐敗した死体だった。悲鳴を上げる圭子。それを聞いて夕子が目を覚ました。ベッドから起き上がり、圭子に迫る夕子。

山口が高木と志津に話している部屋にもその悲鳴が響いた。突然、山口が高木に掴みかかるが、高木は何とかこれを振り払い、地下室に駆けつける。地下室のドアを破り、圭子と一緒に屋敷を出ようとするが、そこに銃声が響いた。撃ったのは山口だ。追い詰められる二人。

その時、彼らの前にナイフを手にした夕子が現れた。山口が「夕子、私はお前の・・・」と言いかけた時、夕子は目にも留まらぬ速さで山口の眼前に肉迫し、その喉を切り裂いた。血しぶきを上げて絶命する山口。

続いて夕子は高木と圭子の方を向き直り、ナイフを構えて二人を餌食にしようとする。だが次の瞬間、彼女の眼から恐ろしい金色の光が消え、ナイフを構えた手をプランと垂らし、糸が切れたようにフラフラとよろめいてその場に倒れた。

夕子の顔から暗い影が消えていった。山口の死により催眠術が解けて、夕子は、ようやく本当の死を迎えることができたのだ。夕子の亡骸に寄り添う志津は、安らかな娘の死に顔を見て嗚咽をもらすのだった。


小林夕岐子さん登場場面・ピンポイント解説

●まず、最初の登場シーンはなんと遺影。和彦が志津に案内された応接間に掲げてあります。竹書房「ゴジラ画報」に収録されている写真とは異なって、劇中の写真では微笑んでいます。両サイドの髪を縦巻きカールにしています。

●和彦が、元気だった頃の夕子を回想するシーン(ロケ地は駒沢公園)。「佐川さーん!」と、手を振りながらこちらに駈けて来る夕子。いわゆる「女の子走り」で、両手を左右に振る様子が可愛いです。

●和彦が鍵穴から部屋の中をのぞき込むシーン。夕子が椅子に座っていますが、顔は見えません。そして、洋服ダンスの中から飛び出してくる夕子。キーの高い効果音と相まって、青白く光る夕子の顔が硬質感をもって映ります。このとき、夕子の眼にはまだ金色のコンタクトレンズが入っていません。

●和彦が窓から夕子の姿を見つけるシーン。夕子は両手を広げてスキップでも踏むように庭に駆け出します。ネグリジェの袖が大きくなびいて、天女のようにも見えます。立ち止まって、両手を戻し、和彦の方を振り返ります。

●夜の墓地で、和彦が夕子と対面するシーン。初め、やや遠くにポツンと立っている夕子。ただ立っているだけなのに、そこからただならぬ妖気のようなものが漂っています。和彦が話しかけても、手を取ってみても反応がない。まさに「人形」と化してしまった夕子。「お願い、私を殺して・・・」というセリフは、まだ吸血鬼モードではない夕子の魂の訴えであり、瞳はまだ人間のそれです。そのいじらしさが涙を誘います。

●和彦が夕子を抱きしめるシーン。後ろ向きの和彦が映り、彼の肩のところでうつむいている夕子が顔を上げると、その目は金色に輝いていて、その白い顔を横切る血まみれの右手にはナイフが握られている。顔を上げながらニコッと笑みを浮かべるが、目にコンタクトレンズが入っていて目線がないため、もはや人間の表情ではありません。

●圭子が寝室で夕子に遭遇するシーン。圭子が振り返ると、ドアの左横にこそっと潜り込んでいた夕子のうつむき加減の顔。しかも顔の上半分だけにライトが当たり、少しやりすぎと思えるくらい、不気味な顔です。極端な上目遣いも恐い。次の瞬間、圭子めがけて飛び出してきますが、それまでの静のイメージから、突然恐るべきスピードで直接自分に迫ってくる恐怖!時間的にはわずかですが、ここの一連のシーンの細かいカット割の積み重ねは見事です。なお、この時の夕子の顔は、全体にライトが当たって、能面のような白い顔に金色の目がポツンと映り、何かロボットみたいでメカニックな印象を受けます。

●圭子が山口の診療所を訪ねて、山口に自分の目撃談を話すシーンでも上記の映像が使用されますが、こちらでは、夕子が光を右手で遮る様子が少し長く映っています。

●墓を掘り起こした男が、夕子に殺害されるシーン。男が振り返ると、既に狙いを定めた夕子が待ち構えています。この時は前フリなしで例の恐い笑みが浮かび上がります。男の断末魔、その後、夕子はいそいそと屋敷の方に向います。歩いているというより、まるで空中を少し浮かんで移動しているような感じです。

●志津が病床の夕子を回想するシーン。自宅のベッドで夕子がうなされています。交通事故で体中血まみれだったのでは?なぜ自宅にいるのか?と突っ込みたくもなりますが、本当に体中血まみれの小林夕岐子さんを見るのは辛いので、この方が良いです。

●志津が、自分の首筋の傷の由縁を語るシーン。かつて志津が自殺を図ったときに残った傷で、夕子は昔からこの傷に触るのが好きだったという事が語られます。ここで、夕子が生きたカラスの首を掻っ切るシーンが挿入されます。彼女は吸血鬼とは言うものの、実は血を吸っていることはなく、もっぱら首を切り裂いて血の雨を降らせています。

●ラスト近く、地下室で圭子が、ベッドで寝ている夕子を発見するシーン。和彦の死体を見て悲鳴をあげる圭子に気づいて、パチッと目を開け、圭子の方を向き直ると、おもむろに起き上がって近づいてきます。圭子、絶体絶命!

●クライマックス、山口に追い詰められた高木と圭子。そこへ夕子が現れます。山口に襲い掛かるシーンは、コマ落としで瞬間移動のようなイメージを作り出しています。そして、次の獲物は高木と圭子。狙いを定めて、ナイフをサッと顔の横に構えるポーズが実に決まっています。しかし2、3歩踏み出したところで催眠術が解け、彼女はその場に崩れ落ちます。



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