プロゴルファー祈子
第23話「傷だらけの栄光」


ストーリー
事件の証拠フィルムを賭けて、高倉(国広富之)との勝負に挑む祈子(安永亜衣)だが、その実力差は大きく、すでに3打差を付けられていた。第5ホール、第1打をバンカーへ落としてしまった祈子に、高倉が声をかけた。「君は、私が相手では最初から勝ち目はないと心を萎縮させている。君の敵は私じゃない。君自身だ。自分のゴルフを、思い切り良くやることだ」。その言葉を心で繰り返しつつ祈子が放ったバンカーショットは、グリーン上で逆スピンがかかりチップイン。このホール、祈子はバーディ、高倉はパーで、2打差となった。高倉の一言で立ち直った祈子は、熾烈な戦いの中で、高倉はプロテストを受ける自分のために特訓をしてくれているのではないかと妙な錯覚に捕らわれることがあった。

その後、祈子はスコアを1つ落とし、前半のハーフを3打差で終えた。後半、第10〜13ホールは両者イーブン、第14ホールは祈子がバーディを決めたが、高倉はボギーを叩き、3打差が1打差に。その後は両者譲らず、最終ホール、祈子は第2打を林の中へ落としてしまった。一方、高倉は3オン1パットのバーディが堅い。祈子が勝つにはイーグルしかないが、ボールは林から出すだけで精一杯の位置だ。絶望が頭をよぎった時、ふと祈子は、鬼怒川峡谷での特訓を思い出した。木を利用したあの曲打ちだ。持てる力の全てを集中した祈子のショットは2本の木に跳ね返ると、驚くべきことに直接カップへ吸い込まれた。そして、高倉のバーディパット。これが決まれば再びイーブンとなる。だが、高倉のパットは僅かにカップの脇に逸れて止まり、この瞬間、祈子の勝利が決まった。「私の負けだ。見事だったよ」と祈子を称える高倉。「先生・・・」祈子は高倉を仰ぐように応えた。

高倉は約束どおり、フィルムと写真を祈子に差し出した。そこには、丸元賢三(長門裕之)が義兄の丸元利一郎(佐原健二)をクラブで殴り殺す決定的瞬間が写っていた。その時、銃声が響き、猟銃を手にした賢三が祈子たちの前に姿を見せ、写真とフィルムを渡すよう迫った。彼らの前に、鏡子(土家里織)、亜矢子(生田智子)と律子(岩本多代)もやって来た。渡さなければ撃つ、と賢三は祈子たちに銃口を向け、引き金に指をかける。だが、銃が火を噴いた瞬間、野沢剣二(萩原流行)が祈子たちの盾となって銃弾をその胸に受け、倒れた。剣二の思いがけない行動に賢三は狼狽するが、やがて剣二が息絶えると、賢三は観念して銃を下ろした。

「・・・全ては終わったよ。義兄を殺したのは確かに私だ。その罪を友平になすり付けて、自殺に見せかけて殺したのもこの私だ。私はこの3年間、真相が明らかになることを恐れて、ただただ怯えて生きてきたような気がするよ・・・」。そして賢三は祈子を振り返った。「妻と娘はこの事件には全く関係ない!」。そう言い残すと、賢三は自らの咽喉を撃ち、命を絶った。直後、亜矢子が賢三に駆け寄り、銃を取って自分に銃口を向けた。「・・・死なせて!死んでお詫びをするしかないわ!」取り乱し泣き喚く亜矢子を祈子と鏡子が必死に制止した。賢三の亡骸にすがりつき号泣する亜矢子と律子。やがて律子が顔を上げ、祈子に許しを請うた。「祈子さん、今までのことは・・・」。だが、今や祈子に恨みの感情は無かった。「おばさま、いいんです。これからは亜矢子さんと二人で、決してくじけず・・・」

祈子は写真とフィルムを世間に公表せず焼き捨てることを決意した。父の無実は今、祈子の心の中ではっきりと証明されたのだ。祈子は信也(風見慎吾)に言った。「お母さんも徹兄ちゃんも、分かってくれると思う。・・・丸元賢三が自殺した以上、全ては終わったのよ。私はもうこれ以上、高倉さんや亜矢子さんを苦しめたくはないの。・・・苦しむのは私たち一家だけで沢山だわ。それに私、殺人者の娘の汚名を着たままでも、必ず世界に通用するプロになってみせる。私は負けないわ!」。祈子は写真とフィルムにライターで火を放った。

それから5日後、プロテストの日がやって来た。ちょうどその日、高倉は警視庁に出頭し、虚心坦懐に全てを告白し、そして妻の墓前で潔くプロゴルファーを廃業した。高倉はその夢を祈子に託したのだ。その祈子は今、青春の全てを賭けてプロテストに集中していた。一打ごとに思い出が甦り、祈子は胸を熱くしながら、プレーに情熱を注ぐ。テスト最終日、グリーン上の祈子が呟いた。「高倉さん、祈子は今、最終ホールのグリーンの上に立っています。最後のパット、あなたに捧げます」。祈子は8アンダーという驚異的な数字で全ホールを終えた。

プロテストの合格発表の日。祈子は第1位で合格した。周囲の人々から祝福される祈子は、最後に万感の思いを込めて信也に言った。「あなたが支えてくれたからです。あなたがいなかったら私は・・・」。信也は首を振る。「君のお父さんの祈りが通じたんだよ」。その日、祈子は信也と一緒に、初めて父の墓参りに向かった。信也さんと再会して私は変わった、人を信じることの大切さ、自分が一番みじめなときにこそ他人を思いやる心を持つことを教えられた・・・そして遂にプロテストに合格できたことを、祈子は父に報告した。

墓参りの後、波打ち際を歩く祈子と信也。ふと立ち止まった信也が、口を開いた。「・・・祈ちゃん、これから僕が話すことをよく聞いてくれ」。祈子は笑顔で頷いた。

信也「僕はここで君と別れる」

「信也さん・・・!」思いもよらない言葉に、祈子の顔が曇った。

信也「祈ちゃん、君はお父さんの真実を明らかにするために本当によく戦った。何度も無茶なことをして僕をハラハラさせたけど、君は死線をくぐり抜け、絶望を乗り越える度に心と魂を強くして、輝くような女性となった。でも君には、お父さんの夢があるんだ。全日本女子オープンに優勝するという大きな夢があるんだ。これからは君一人でやって行くんだ。一人で悩み、一人で戦って行くんだ」

祈子「やめてください信也さん。あなたが支えてくれたからこそ、私は今日まで生きて来れたんです。あなた無しでどうやって生きて行けるって言うの?・・・信也さん、私はあなたを愛してるんです。愛してるんです!」

信也「僕も君のことを愛してるよ。祈ちゃん、僕の君に対する愛は一生変わらない。だから別れる決意をしたんだ。君が一人で生きて行く人間になるために、別れる決意をしたんだ」

祈子「嫌・・・嫌です!信也さんと別れるくらいなら、私、プロゴルファーになんてならなくてもいい。信也さん、私を傍に置いてください。あなたは私のために全てを捨ててくれたわ。今度は私がそうする番です」

信也「祈ちゃん、君は今日までの戦いの中で、人間の憎しみ、悲しみ、怒り、喜び、嘲り、裏切り、その全てを知ったはずだ。その中で、どんな人でも光を求め、魂を輝かせて生きることを望んでいることを知ったはずだ。これからの人生で君がやらなければならないことは、君のゴルフで、そんな人たちに勇気を与えることだ。プレー中の君の姿を見ることで、多くの人が活力を取り戻し、明日を生きる勇気を持つことが出来るような、そんなプロゴルファーに、君になって欲しい」

祈子「信也さん・・・」

信也「正直言って、僕も自分の人生を考える時間が欲しい。いつか、いつか君を大きく迎えるために、僕も人間として成長しておきたいからね。・・・僕の仕事は終わった。これからは僕自身が、祈ちゃん、君の高さまで自分を引き上げる番だ。分かってくれるね」

祈子もやがて涙を浮かべながら頷いた。

信也「君は光のような女性だ。自ら輝き、君を見る全ての人を輝かせることの出来る女性だ。いつでも、どんな時でも、魂を光に掲げて生きてくれ!」

祈子「信也さんの心を決して、決して忘れません・・・!」

信也「僕たちの別れに涙はよそうな。僕はいつでも君を見てるぞ。さよなら、祈りっ子・・・!」

祈子「さよなら・・・」

信也は祈子を残して、一人歩き始めた。去り行く信也の姿を見つめながら、祈子は悲しみを堪えながら信也に誓った。

祈子「泣かないわ信也さん。いつか、いつか光の中であなたと逢うまでは、私は泣かない。泣かないわ・・・!」

別れの言葉に信也の大いなる愛を感じた祈子は、溢れる涙の中で、プロゴルファーとしての新たなる出発を決意していた。

――祈子、18歳。青春の旅立ちである。


MEMO
「祈ちゃん、これから僕が話すことをよく聞いてくれ」という信也の言葉を聞いて、てっきり信也からプロポーズされるとでも思ったのか、祈子は笑顔で頷くが、信也の口からは思いがけない告白が飛び出す。信也と祈子は人生の同志として数々の苦難を乗り越え、遂に祈子の父・友平の無実という真実を掴んだ。そして祈子は父の夢の第一歩であるプロテストに合格する。しかし、真実を追い求めた二人の努力の陰では、多くの人々の犠牲がありました。命を落としてしまった者たちはもとより、深い心の傷を負うことになった律子と亜矢子など・・・。終盤で信也が語る言葉は色々な解釈がありそうですが、一連の海岸でのシーンは、何度でも繰り返し味わいたい名場面だと思います。

祈子たちを庇って、自ら賢三の凶弾をその胸に受けてしまう剣二。息を引き取る間際、剣二は、自分の抱いていた夢について語る。高校を卒業したら真っ当な会社に入って、家族を持ちたいと思った、ちっぽけな夢だが、俺には十分すぎる夢だった、と。だが剣二は高校卒業後は賢三によって有無を言わさず暴力団に入れられ、その夢が叶うことはなかった。「野沢、どうして・・・!」と問いかける祈子に剣二は、「俺にも分からねえ・・・祈子、それは多分、お前が俺の魂に、光・・・」そう言いかけて、剣二は息を引き取ります。賢三の忠実な猟犬として生きねばならない宿命を背負った剣二。最後にようやく希望の光に触れたところで、図らずも妹・冬子の後を追うことになってしまいます。

賢三の亡骸にすがりついて泣き崩れる亜矢子と律子に、鏡子が寄り添い声をかける。

「もういいじゃないか。私もあんたたちがおじさんの仲間じゃないことが分かってホッとしたんだ。今まですまなかったね。これからは、残された私たちで丸元の家を再興させ、守っていこうじゃないか・・・」

・・・あまり二人のフォローになっていないような気がしますが・・・。おまけに鏡子は、祈子がプロテストを終えた日、こんなことを言っています。

「祈子おめでとう。私はアメリカに留学して一から勉強をやり直してくるよ。祈子、アメリカで試合する日を楽しみにしてるよ。チャオ、祈子」


「チャオ♪」って大沼ユミ(←「ヤヌスの鏡」)かい!鏡子は従姉である亜矢子さんを置いて旅立ってしまいます。

初出・2004年3月3日水曜日




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