おれは男だ!
第36話「星の国から来たあいつ!」


ストーリー
にわかに西洋占星術に凝り始めたバトン部の秋本京子(田坂都)。転入生で新たにバトン部員となる織田ユリエ(新井麻夕美)は、あなたには白馬に乗ったプリンスが現れる、という京子の占いを真に受けて信じ込んでいた。そんなある日、ユリエは砂浜で貝殻を拾っている青年・松山(田村亮)と出会った。どこか陰のある雰囲気を持つ松山に、ユリエは運命的なものを感じた。二人が仲睦まじくしている様子を目撃した京子によって、ユリエはバトン部員たちから色々と詮索されるが、ユリエは本当に白馬の王子様が現れたのだと言って気にかけず、日曜日にデートの約束をしたことを京子たちに話してみせる。

日曜日、松山は白いオープンカーでユリエを迎えにやって来た。ボーリングをしたり、画廊で絵画を鑑賞したりする中で、松山が絵を趣味にしていたこと、入院している妹のこと、一流貿易会社・藤和商事の御曹司であることなどをユリエは聞き、彼への興味を強く抱くようになる。次の日曜、今度は二人でヨットに乗る松山とユリエ。洋上で、ふと松山が呟いた。「もし僕が、君の思ってるような人じゃなかったら、どうする?」。だがユリエには、彼を疑う様子はなかった。そんな時、空に黒雲が立ち込め、激しい嵐に襲われて、二人は急いで引き上げた。ずぶ濡れになった二人は、岩陰で焚き火に当たる。ジャケットにくるまって身を縮めているユリエに、松山が問いかけた。「・・・もし僕がお嫁さんになって欲しいと言ったら?」・・・ユリエは黙って目を閉じた。松山は彼女に口付けをして抱き寄せた。

その日遅く、帰宅したユリエは母親に、「お母さん、私、結婚していい?もし好きな人が出来たら・・・」と深刻そうに話した。冗談とも思えないその言葉に心配したユリエの母は、翌日、バトン部キャプテンである吉川操(早瀬久美)に、ユリエの本当の気持ちを聞いてみて欲しいと頼み込む。操はユリエのことを弘二(森田健作)にも相談し、一緒に街を歩いていると、ある自動車修理工場で、操もかつて見かけたユリエの恋人・松山の姿を発見した。松山は本当は、ユリエの前で振舞ってみせたような大会社の御曹司ではなかったのだ。

弘二は、松山と男同士二人だけで話し合った。松山は長崎県の離島の生まれで、彼が中学を卒業したとき両親を亡くし、妹と二人で上京したという。高校へも行けず苦労を重ねて来た松山は、あんたたちに俺たちの気持ちなんて分かるもんか、と弘二に言う。その頃、弘二も部費捻出のために工事現場で働いていたが、松山に言わせれば所詮はアルバイト、学校が始まればさよならだ。しかし松山にはあの修理工場が一生の生活の場である。それは彼の卑下ではなく、厳然たる事実なのだ。

松山「・・・週に一回、日曜日、夢を見て夢の中に生きてる人間のことなんか、親掛かりのあんたたちに分かりっこないんだ」

弘二「俺に分かろうと分かるまいと、そいつは言い逃れだ。卑怯な言い訳だと思う」

松山「いいか、俺みたいな、俺みたいな奴がどんなに頑張ったって、大学を出て一流の貿易会社に勤めてる人みたいにはなれっこないんだ。・・・絶対なれないって分かった時、俺はせめて夢を持とうと思った。俺のことをいけ好かない現実逃避野郎だと笑ったっていい」

弘二「でも君は、君の夢のおかげで彼女を傷付けてるんだ。彼女は、いや、織田ユリエは、たとえ君が王子様でなくても、やっぱり君を好きになったと思うよ。彼女は素直でいい子だ。それなのに君は・・・!」

松山「妹がね・・・言うんだ、病院にいるんだけど、“兄さん、キチンとした格好をして行け、でないと振られるわよ・・・”。こまっしゃくれた奴でね。私の分まで幸せになってくれって」

その時、松山の同僚が、大声で彼を呼んだ。病院で彼の妹が亡くなったという知らせだった。「・・・ユリエさんに、幸せにって言ってくれ」弘二に言うと松山は走り出した。途中、松山は弘二を振り返って彼に言い残した。

「小林!俺には俺の生き方がある。君だってそうだろう。君は今、剣道に強くなることが一番大切なことだ。強くなってくれ。世の中に出てからも、誰にも後ろ指を指されないように強くなってくれ!」


それからしばらく経ったある日。ユリエはいつか松山と焚き火に当たった海岸の岩陰を訪れた。そこには作業用ジャンパー姿の松山が立っていた。

松山「俺はね、ユリエさん、君が探している王子様でも、あのヨットに乗った松山って青年でもないんだ」

ユリエ「・・・知っていたわ。私、電話したから・・・あの封筒に書いてあった会社に。ううん、そんなこと私どうでもいい。あなたが好き!」

松山「違う。君が好きなのはこの僕じゃない。・・・君の好きなのは、牡牛座生まれの男らしい男で、ボーリングが上手くて絵描きを志し、スポーツカーやヨットを乗り回す、あの王子様なんだ」

ユリエ「違うわ、本当のあなたよ!」

松山「本当の俺はね、自動車修理場の見習い工の松山って奴なんだ。スポーツカーもヨットも借り物なんだ。絵が好きだなんて言ったのもあれは女の子を騙すためさ。絵描きになりたいなんて真っ赤な嘘だ。俺には何も出来やしない。俺に出来るのは、油で手を汚して、エンジン修理やパンクを直したり、ハンマーを振り回すことだけなんだ!」

ユリエ「それでも好きです、あなたが」

松山「俺は俺を知っている。夢は夢。俺は俺なんだ」

ユリエ「・・・夢でない、今の本当のあなたが好きです!」


松山「馬鹿野郎!君はね、君に相応しい人を探すんだよ、それしかないんだ!さよなら!」

それだけ言うと、松山はユリエを振り切るようにその場を後にした。

翌日、波が打ち寄せる砂浜にひとり佇んでいるユリエ。「・・・いくら待っても、彼はもう来ないよ」そう言って弘二が現れた。「彼は貿易会社の御曹司でもなかったし、白馬に乗った王子様でもなかった」という弘二の言葉を背中に受けて、ユリエは落ち着いた口調で答えた。「ありがとう小林君。私がショックでがっかりしてるんじゃないかって心配してくれてるんでしょ?大丈夫よ、私」。そしてユリエは彼を振り返って言った。

「でも、白馬に乗ったプリンスは確かにいたの。だって私に、愛ってどんな物か教えてくれたんだもの・・・!」

そう言って走り去るユリエの目には涙が伝っていた。自分の見た愛の姿と向き合いながら、ユリエはひたすらに砂浜を走り続けていた。


MEMO
34話「星の広場に集まれ!」と同様に、今回も弘二は、親掛かりで高校生活を謳歌している自分とは全く違う世界に生きる同世代の若者と向き合うことになります。

修理工の青年・松山が、自分の素性を隠して織田ユリエとの虚構のデートを楽しんでいる姿に、弘二は賛同することが出来ません。どうあがいても大卒のエリートにはなれないなら、俺はせめて夢を持とうと思った・・・という松山の告白に弘二は、それでも君は彼女を傷つけている、と一角の反論をして見せるのですが、二人の立場にはやはり決定的な溝が存在していると言わざるを得ません。しかし、松山と弘二が話を交わしている最中に、松山の妹が急死したという知らせが入り、思いがけない現実の力によって、松山は自分の虚構の姿と訣別しなければならなくなります。弘二との別れ際に、松山は言い残します。

「小林!俺には俺の生き方がある。君だってそうだろう。君は今、剣道に強くなることが一番大切なことだ。強くなってくれ。世の中に出てからも、誰にも後ろ指を指されないように強くなってくれ!」


今回の弘二は、自分の熱い青春の叫びをもって松山の心の根幹を揺り動かすことは出来なかったのかもしれません。逆に弘二は、松山の言葉を受けて、自分がなぜ剣道にやっているのかを真剣に見つめ直し、部員たちにもその真髄を叩き込もうと奮起します。

明石さくら校長(京唄子)が東洋占星術に凝り始めたり、バトン部のユニホームを大友ストアーの社長(太宰久雄)が寄付する話も同時並行で展開しますが、松山とユリエの描写とのバランス上、これらはやや中途半端な印象がありました。

ユリエがヨットの上で歌っていたのは、天地真理さんの「水色の恋」。

ラストシーン、海岸を走るユリエと工場で働く松山とのカットバックに流れる「友達よ泣くんじゃない」は正にベストマッチング!。ちなみに、今回使用された若干テンポの速いバージョンはマスターテープが存在しないとのことで、バップの「ミュージックファイル」CDにも収録されていません。




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