おれは男だ!
第34話「星の広場に集まれ!」


ストーリー
学校から帰った弘二が鞄を開けると、女生徒の物らしい日記が出てきた。何気なく中を見ると、前半は他愛のない内容だが、直近になると「Nのやつ 八つ裂きにしたい」「絶望 絶望 絶望」「私は死にたい」といった記述が出てきた。職場での立場を利用して彼女に卑劣な誘惑をする上司がいることも書かれていた。日記には「永野久美」という名前があり、彼女は青葉高校の定時制の生徒だった。彼女が机の中に忘れていったノートを、弘二は知らずに鞄に入れてしまったのだ。日記の内容に憤りを感じた弘二は、死ぬなんて考えるのはバカだ、君は偏屈でつむじ曲がりの天邪鬼だ、などと自分の名前も明記して返事を書き机の中に入れておいた。案の定、弘二は永野久美(岡田由紀子)から呼び出しをかけられた。

久美「・・・頭を下げられても私の気は収まらないわよ。あなたが書いて寄越したノートの文章、あれは一体何?まるで喧嘩を売ってるみたいじゃないの!・・・日記だと分かっていて人の物を読むような人間に他人を誹謗する資格があるとでも言うの?・・・覗き見趣味なんてそんなの最低よ!」

弘二「冗談じゃないよ!最低なのは君の方じゃないか!・・・Nって誰なんだい。その男が君たちにしようとしていることは、男性、いや人間として最低のことじゃないか!その誘惑に負けそうになって、死のうなんて考えるのはもっと最低だよ!」

久美「私が死のうと生きようとあなたに関係ない問題よ!余計なことだわ」

弘二「君はそんな風にしか受け取れられないのかよ!」

久美「私のことをどれだけ知ってるの?私はね、同情なんてして欲しくないのよ!」


弘二「同情なんかじゃない!君は、俺の言っていることが信じられないのか!」

久美「信じないわ!私は誰の言うことも」

弘二「おい、ちょっと待てよ!人間が人間を信じないで、一体何を信じればいいんだよ!・・・信じたくなければ、俺のことだって信じなくてもいい、しかしだな、俺は卑怯者にはなりたくなかったんだ。だから、読んで悪かったって正直に書いたんだ。日記の内容だって、口が裂けても誰にも言いやしない!」

父親が蒸発し、職場の上司からも裏切られている彼女は、頑なに人を信じようとしなかったが、真摯な弘二の態度によってその心も動かされた。久美は口論するのを一時休戦にしようと提案。その日から二人の交際が始まり、交換日記をしたり、デートを重ねるようになった。

ある日、上京してきた久美の弟を二人で後楽園球場へ案内した後、久美は弘二を連れて、あるスナックへ向かった。そこでは、かつての久美の同僚・清水孝江(中川加奈)が働いていた。孝江は久美たちと一緒に集団就職で山梨から出て来て、同じ工場で働いていたが、次第に久美たちと考えを異にするようになり、手っ取り早くお金を貯める手段として水商売に転職していたのである。久美は孝江に、母親からの手紙を手渡した。孝江の母はまだ彼女が工場で働いていると思っている。もう一度戻ってきて欲しいと久美が説得しても、孝江はつれない返事だ。店の奥からは、明らかにその筋の者が弘二と久美を鋭く睨み付けている。弘二は半ば強引に久美の手を引いて早々にそこを引き上げた。

ずっと一緒に同じ職場で頑張ってきた仲間を呼び戻せなかったことで、久美の落胆は大きかった。それに対して弘二は、「彼女ははっきり迷惑だと言ったじゃないか。ああいう生き方だって、あの人には幸せなんだ」と割り切って見せたが、これが為に再び久美との間に溝が生じてしまった。久美は弘二を見据えて言った。肉親の愛情のもとでぬくぬくと育ってきた人間と、肉親と離れて働きながらでなければ勉強もできない自分たちとは、やはりどうしても分かり合えない、住む世界が違うのだと。そして彼女は袖をまくり、右腕に残る傷跡を弘二に見せた。仕事中に機械で怪我をした時のものだ。彼女の仲間の中には腕を切断したり指を失った者もいる。彼女たちはそんな仕事をしているのだ。これに対して弘二は、就職するとすればホワイトカラーであろう。久美が突きつける現実の前に、弘二は何も反論出来なかった。二人は喧嘩別れになってしまい、交際は途絶えた。

その後、弘二と決裂した久美は、以前より彼女に魔手を伸ばしていた工場主任・仲本(綾川香)の誘惑に負けそうになっていた。孝江はそんな状況を外部から見ていたが、店では表向き久美を追い返したものの、彼女が自分の二の舞になるのを見過ごすことは出来なかった。孝江は久美がかつて付き合っていた弘二のことを知っており、彼を捕まえて久美のピンチを知らせる。弘二はその夜、授業を終えて帰宅する久美を訪ね、もう一度会って欲しいと伝えた。そんな必要はないわ、と答える久美だが、弘二は「日曜日の夕方、海岸通りの公園の前で、君が現れるまで何時間でも待っている」と言ってその場を後にした。

日曜日は土砂降りの雨だった。弘二は久美を待ったが、夜になっても現れない。久美は、弘二とはもう会わない方がお互いのためだと考えていた。そんな頃、寮にいる久美の所へ仲本がやって来る。久美が前日の仕事でミスをしたことについて、工場長宅へ一緒に謝りに行こうというのだ。その言葉を信じて仲本の車に乗る久美だが、仲本の魂胆は久美を誘い出すことにあった。雨がますます激しさを増す中、やがて車が信号で止まり、仲本が煙草に火をつける。その隙に、久美は思い切ってドアを開け外へ飛び出した。

激しい雨の中、海岸通りの公園に向かって無我夢中で走る久美。やがて、公園でずぶ濡れになって立っている弘二の姿が久美の目に飛び込んできた。弘二も彼女の姿を認め、二人は駆け寄り対面する。

久美「待っててくれたのね・・・」

弘二「君が来てくれなければ、明日の朝まで待ったかも知れないよ・・・」

久美「来て良かった・・・私、心の中で賭けてたの・・・小林君が待っていてくれるかどうかって・・・」

弘二「僕は、信じると言ったろう。だから君を信じて待ってたんだ」

久美「私、信じる物ができたのね!そうでしょ!?」

そう弘二に叫ぶ久美の顔は、雨と涙でぐしゃぐしゃになっていた。

弘二「ばかやろう・・・君は、泣かないって誓ったんだろ。君らしくねえぞ・・・!」

久美「私、泣いてるんじゃない!・・・泣いてなんかいないわ!」

二人は向かい合ったまま、降りしきる雨に打たれ続けていた。


★ ★ ★


学校で、職場で、再び弘二と久美のそれぞれの生活が始まる。二人はお互いに日記に書いた。

「小林君、あなたに会えて本当に良かった。今の職場でこれからも頑張るわ。あの日、雨に打たれて待ってくれたあなたの姿を見たとき、人を信じ切っているあなたの心の美しさに打たれた気持ちでした。一生、あなたとのふれあいは忘れないでしょう。そして、『人間が人間を信じないで何を信じればいいんだ』、あなたのあの言葉も・・・」


「永野君、君を見つめてるのは、夜の星だけじゃない。これからはもう一つ、君の生き方を見つめている“光”があるってことを忘れないで欲しい。君のお父さんは、君たちを裏切ったわけじゃない。いつか帰ってくる。そう信じて待つんだ。信じるってことは、人間にとって一番素晴らしいことなんだ・・・」


MEMO
「おれは男だ!」全エピソード中でも重厚な出来の作品として特筆すべき一本だと思います。弘二の熱い青春も、働きながら学校に通う者から見れば親のすねかじりの産物に過ぎない。久美との交際の中で、彼女の苦しみを打ち明けられても、弘二には何もしてやることは出来ない。彼がどんな言葉をもって説得しようとも、それは全て恵まれた境遇にある者だから言える綺麗事と一蹴されてしまうだろう。しかし、弘二が自らの行動で示した「人間が人間を信じないで、何を信じればいいんだ」という叫びは、頑なに人を信じようとしなかった久美の心をも遂に動かします。

ラストシーンは剣道部の練習風景と、工場で働く久美の表情とのカットバック、そしてBGMは「さらば涙と言おう」!・・・うう、泣けるぜ!。また、弘二と久美が雨の中で対面するシーンでは、いわゆる「苦悩する青春」系BGMのM-7(1971年8月18日第2回録音分)が雰囲気を引き立てます。

弘二が久美の「一日だけの恋人」になり、彼女の弟・勇を後楽園球場へ案内するシーン。勇は中学三年生で、新聞配達をして家計を助けている。あいにくシーズンオフで試合は無かったが、勇はグラウンドを指差して「あのマウンドやバッターボックスで王や長嶋がホームラン打つんだね」と目を輝かせる。ここで弘二は勇に「何かご馳走するよ」と声をかけるが、「無理するなよ、どうせ親のすねかじりだろ」と痛い指摘を受けてしまう。勇は中学を卒業したら就職することになっており、好きな野球も続けられない。そんな彼の言葉の前に、弘二は苦笑いするしかなかった。だがその直後、勇は弘二に「ふつつかな姉ですがよろしくお願いします」と頭を下げる。勇の方が弘二よりもよっぽどしっかりしている(笑)。久美のちょっと複雑な照れ顔も印象的でした。

今回は吉川操は完全に脇に徹しています。前半のエピソードであれば、弘二が他の女生徒と交換日記をしたり毎週日曜日にデートしていようものなら操は忽ち取り乱していたでしょうが、今ではすっかり理解あるパートナーとなり、「励ましてあげるんだったら、とことん力になってあげなさいよ」「こんなとき力になってあげられない私って、ダメね(笑)」とまで言っていました。




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