おれは男だ!
第32話「おれも男だ!」


ストーリー
グランドでサッカーに興じている剣道部員たち。その最中、グランドの脇で本を読んでいたクラスメート・塩崎俊也(沖雅也)の所へボールが転がった。塩崎は国立大の医学部を目指しており、勉強ばかりして自分の殻に閉じこもっているように見えるタイプである。彼はボールをわざとグランドと反対の方へ蹴飛ばしてしまい、「グランドを返せ!」と捨て台詞を残して彼らの前から去った。そのとき塩崎は、ラクロ著「危険な関係」という本を落としていったが、彼は気付かなかった。弘二もその小説に興味を持ち、自分でも読み始める。

ある日、剣道部員たち砂浜で稽古をしていると、突然オートバイに乗った不良グループの一団が割って入り、部員たちを追い掛け回したりして騒然となる。その時、弘二は不良グループの中に塩崎らしい男がいるのに気付く。翌日、学校で弘二が塩崎に声をかけると、やはり塩崎にはやや不自然な様子が見られた。

その夜、窓越しに操から大声で呼び出された弘二。操に不愉快なラブレターが来ていたという。操は弘二が犯人だと決め付け追及するが、弘二には身に覚えがない。操によると、ラブレターの文面は「危険な関係」の引き写しであり、彼女は弘二がその小説を読んでいることを知っていた。こんな手の込んだ悪戯をするのは弘二だけだと言うのだ。そして操は、手紙の最後の一行に「ああ、どうか僕の苦しい胸の内を察してください。吉川操様」とあり、それまで「私」だったのがここだけ「僕」であることを指摘、この悪戯も実は間が抜けていることを暴露してみせる。

翌日の教室。操は教科書に挟んでおいた例のラブレターを落としていたことに気付かず、これを壁に張り出されてしまった。操に宛てたその濃厚な文面に、生徒たちは騒然。これを知った弘二は操の不注意を非難するが、操も「自分で書いた手紙に責任を持ったら?」と反論。そして手紙が「危険な関係」の盗作であることを話し、生徒たちは幻滅。弘二は、手紙を書いたのは塩崎ではないかと考えていた。確かに塩崎は無関心を装っているが様子がおかしい。だが弘二はあえて皆の前で開き直り、塩崎のことはおくびにも出さずに、その場を取り繕った。

その夜、塩崎の実家を訪れた弘二。塩崎は母と二人暮しで、母は医院を経営している。塩崎はまだ帰っておらず、しばらく待っていると、オートバイに乗った不良グループが通りかかった。弘二が後をつけてゆくと、彼らはとあるバーに入っていった。店内で弘二は、グループの一員にやはり塩崎がいるのを目撃。やがて、仲間の一人が睡眠薬中毒の女を隣のフォトスタジオに連れ込み、塩崎をけしかけて乱暴しようしたとき、弘二が飛び出し、彼らと大乱闘となった。弘二は命からがら塩崎と一緒に店から脱出する。

海岸まで辿り着き、ようやく落ち着いた二人。塩崎が口を開いた。「どうしていちいち俺に干渉するんだ。いつ手を貸してくれって言った・・・俺はお前が許せないんだ、憎いんだ!」言葉では通じ合えず、二人は激しく殴り合う。だが塩崎は腕っ節では弘二に敵わなかった。やがて塩崎は弘二に、「三無主義」について語り始めた。

「無責任・無関心・無気力・・・今の高校生はこれに毒されて駄目になっていると何かの本に書いてあった・・・確かに俺だってそうだ。しかし、だからと言って、やりたいこともできず、ひたすら地獄のような受験勉強に没頭しなければならない俺たちに一体何が出来るっていうんだ!・・・適当に遊び、適当に運動して、適当に勉強する奴が憎かった!君が妬ましかったんだよ!君のように伸び伸びと振舞えない自分が悔しいんだよ!」

それだけ言って、再びバイクに乗って飛び出そうとする塩崎に向かって、弘二が叫んだ。

弘二「塩崎!貴様、また奴らのところに戻るのかよ!悔しかったらなぜ戦わないんだ、三無主義と!貴様、いま俺と戦ったじゃないか!」

塩崎「俺は負けたよ!」

弘二「力では負けたかもしれない。しかし、貴様には貴様のやり方があるはずだ!勝てる方法を考えろ!」


その夜、塩崎との決闘で怪我をした右手の手当てをしている弘二。すると「貸しなさいよ!」と操がいささか乱暴にだが弘二の手当てを買って出る。ちょっとした世話女房だ。自分の部屋に戻り、明日の試験に向けて勉強を打ち込む弘二。同じ頃、塩崎も自分の部屋で机に向かっているが、彼は勉強が手につかない。遂に煮詰まってやおら立ち上がると、参考書を手荒く払い除け、机の上のコップを叩き付ける。その時、彼も右手に怪我をした。1階に降りて来ると、母親(本山可久子)は診察室でまだ仕事をしている。彼は結局廊下からその様子を見るだけで、怪我のことを言い出せなかった。

翌日の定期テストを、塩崎は欠席していた。彼は私服で学校に現れると、「くたばれ三無主義」と題した全校生徒への提案文を張り出し、グランドからサッカーボールをテスト中の教室に蹴り込む。直ちに職員室に呼び出される塩崎。塩崎は、教師たちや、駆けつけた母親、そして同席した弘二に自分がそれまで押し殺してきた思いを打ち明けた。

「僕はもう医学部は受けないよ。・・・前々から薄々分かってたんだ、自分の能力じゃ一流の医学部は無理だって。怠けてたわけじゃない。精一杯やっても成績が上がらないんだからしょうがないじゃないか、母さん!僕を一人の人間として見て欲しいんだよ。ほっといて欲しいんだよ!」

塩崎は一週間の停学処分となった。その日の夕食、育ち盛りだもん、と言って塩崎がご飯を何杯もおかわりする様子を見て、あなたが楽しそうに笑うのを見たのは何ヶ月ぶりかしら、と母も笑った。そして突然、母は彼にボウリングに行こうと言い出した。やった事ないから出来ないよ、と言う塩崎だが、母にとってもボウリングは初めてである。「じゃあ一緒に恥をかきに行こうか」と塩崎は笑って、二人でボウリング場に出かけた。ガーター続きのゲームであったが、彼らにとってそれは生き生きとした楽しい時間であった。

定期テスト当日における塩崎の行動を見て、生徒たちも彼への見方を改めるようになっていた。そんなある日、帰宅途中の女生徒と談笑している塩崎の前に、例の不良グループたちが再び現れた。彼は人気のない寺へ連れて行かれ、そこで袋叩きにされてしまう。京子たちから知らせを受けて、剣道部員たちが現場へ急行。塩崎を助け、不良グループと大立ち回りを展開する。やがて塩崎も立ち上がり、彼は自分の拳でリーダー格の相手に一撃を与えた。

次の日、グランドでサッカーボールを追っている塩崎。彼の蹴ったボールが、彼の姿を見ていた操の前に転がる。ボールを拾った操が、塩崎に笑顔で言った。「塩崎君、やったわね」。塩崎は操に、あの手紙は自分が書いたのだと打ち明け、そして少し照れながら彼女に言った。

塩崎「・・・もう一度、手紙を書くよ。今度は自分の文章で、ちゃんと名前も書いて、ね」

操「ラブレターを?」

塩崎「うん!」

塩崎は再び大きくボールを蹴り、グランドへ駆け出す。そんな彼の姿を、操はいつまでも笑顔で見守っていた。


MEMO
今回は「友達よ泣くんじゃない」のインストゥルメンタルが実に4回も使用されています。どれもストーリーのポイントになる箇所で、非常に効果的だったと思います。

【1】操が塩崎と並んで歩きながら「自分の殻に閉じこもっていないでもっと自分の意見をはっきり言った方がいいわ」等と話すシーン
【2】教室に張り出されたラブレターについて弘二が(塩崎を庇って)自分の仕業だと言うシーン
【3】定期テスト当日、塩崎がグランドでボールを蹴って駆け出すシーン
【4】寺の境内で、塩崎が不良グループのリーダーに最後の一撃を与え、そして自分も力を使い果たして倒れるシーン

フランスの作家・ラクロ(1741-1803)の「危険な関係」は、全編が書簡体で書かれた小説です。塩崎はこの小説の一説を引き写し、最後の一行だけ「ああ、どうか僕の苦しい胸の内を察してください。吉川操様」と書き加えました。この部分だけ「僕」になっているため、丸写しであることが発覚してしまいます。本編で引用された部分は、パリ社交界のドン・ファンであるヴァルモン子爵が、人妻であるツールヴェル法院長夫人を誘惑する手紙の一部です。高校生がラブレターに使うお手本としてはあまり健全ではありません(笑)。

第52信
 ヴァルモン子爵よりツールヴェル法院長夫人へ

 あなたは、私が恋を語ることをお禁じになりました。 …(中略)… あなたは恋を恐れると見せかけていらっしゃいますが、あなたの非難なさる恋の悩みは、ただあなたのみその原因であるということを、あなたは知ろうとはなさらないのです。ああ! もちろん恋も片思いとなればつらいものです。しかし相愛して幸福が得られなければどこに幸福を求めましょう。優しい愛情、快い信頼、しかもただ一つ無条件な信頼、苦しみのやわらぎ、いやます喜び、あこがれ、とろかすような追憶、これらは恋をほかにしてどこに見出すことが出来ましょう。…(後略)

定期テスト前日、勉強をしている弘二の部屋。ラジオからは堺正章「さらば恋人」(北山修・作詞、筒美京平・作曲)が流れています。

塩崎が校内に張り出した「くたばれ三無主義」という張り紙の内容は以下の通り。

無責任・無関心・無気力を克服
するために全校諸君に提案する。

一. 運動部からグランドをとり戻し
  運動をしよう
一.学校の押し付けテストと
  大学受験をボイコットしよう
一.恋をしよう

        三年D組 塩崎俊也



操が弘二の怪我の手当てをするシーンで、弘二は操に「三無主義って知っているか」と尋ねるが、操は「知らない」と答える。この二人は三無主義とは全く無縁の充実した高校生活を送っているので当然のことですが、今回は彼らの謳歌する青春を、逆に塩崎のような三無主義の呪縛に囚われた立場から映し出しています。「・・・適当に遊び、適当に運動して、適当に勉強する奴が憎かった!君が妬ましかったんだよ!君のように伸び伸びと振舞えない自分が悔しいんだよ!」塩崎が弘二にぶつけるこのセリフは、「おれは男だ!」前半に見られた明るい青春ドラマの前提が180度ひっくり返っていることを象徴しています。

試験勉強に対してそれなりに頭を抱えながらも、深刻に思い詰めてしまうことなく机に向かう弘二。彼は怪我をして帰ってくれば、一つ屋根の下に住む(義理の兄妹の)操が、そっけない態度を見せながらも手当てをしてくれる。一方の塩崎は、家が医院であり、母一人子一人。母は声高に言うわけではないが、医学部受験は暗黙の了解のようになっている。夜、勉強に煮詰まってコップを割り、怪我をして診療室を覗いてみると、母はまだ仕事に追われていて、自分の怪我のことを言い出せない・・・。このシーンでは、対照的な二人の描かれ方が印象的です。

塩崎の母親はいわゆる教育ママとしては描かれていません。むしろ息子の自主性を尊重し、理解ある母親としての面が強調されています。塩崎は自分から狭い殻に閉じこもって身動きが取れなくなっていたに過ぎず、彼は弘二や操たちとの関わりの中から、自分の問いに答えを見出して行く。そして母親は彼が自分で見つけた道に対して口を挟むことはせず、お互い初めてであるボウリングを一緒にやってみようと持ちかけます。二人がボウリングをするシーンは一見唐突に見えますが、塩崎が視野を広く持ち始めたことを象徴する一つの出来事として、印象に残る場面です。

ラストシーン、グランドでボールを追いかける塩崎。彼を見つめる操の笑顔が素晴らしく美しかったです。ここではBGMに「さらば涙と言おう」が使用されました。



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