おれは男だ!
第29話「海よ子守唄をかえせ!」


ストーリー
インターハイが迫り、気合を入れている剣道部員たちに向かって、トランペットで葬送行進曲を吹く西条(志垣太郎)。彼は、親のすねかじりで剣道をやっているお前たちが勝てるわけがない、一回戦で負けると宣言し、部員たちと口論になる。

西条はその日校内で操(早瀬久美)とぶつかって定期入れを落としたが、彼は気付かなかった。それを拾った操は、中に幼い西条と弟、そして母親らしい女性の3人が写った写真を見つけ、放課後、西条のスナック“シャルム”に届けに行った。操は西条について、麻里(有吉ひとみ)から忠告を受けていた。彼には危険な魅力、人を惹き付ける何かがある。だが、なぜ彼が執拗に皆に突っかかるのか、操には気にかかっていた。

翌日、操は思い切って西条に声をかけた。彼が本当の母親や若い義理の母親のことで悩んでいるとしたら、両親のない自分になら彼の気持ちもわかると操は考え、力になれることがあれば相談してほしいと彼に持ちかける。

その夜、“シャルム”を訪れた操。西条は操と海岸へ出て、自分の両親の話を聞かせた。彼を生んだ母親(木村俊恵)は現在、彼の弟のケンジ(中森重樹)と一緒に鹿島灘の港町にいるという。10年前、西条の父親は前衛華道の家元になり、芸術的才能と政治的ハッタリでぐんぐん伸してきた。しかし金が貯まると良くある話で、父は酒と女に溺れ、バーのホステスだったみどり(しめぎしがこ)と結婚すると言い出した。母は西条を残し、ケンジを連れて家を出て行った。その日の光景を、西条は今も忘れていなかった。この10年、彼は母に、いつかこの恨みを言ってやろうと心に決めていた。「今度はこっちが捨ててやる、あばよ!」と。だがそのとき、操が彼に言った。

操「弱虫!あなたは本当は弱虫よ!」

西条「何?そいつをもう一度言ってみろ!」

操「何度でも言うわ。あなたは弱虫よ!夜こっそり空手の練習なんかしてるけど、そんなことで自分の弱さを誤魔化そうとしているのよ。いい?お母さんはこの町からだって車で4、5時間とかからない鹿島灘にいるのよ。その気になれば今夜にだって会いに行ける。あなたはお母さんに会うのが怖いんだわ。だからこの10年間、うじうじと自分を誤魔化して・・・」

西条「黙れ黙れ!


操に平手打ちを浴びせる西条。だが彼は操に反論することは出来ず、その場を走り去った。

インターハイの試合日前日。剣道部員とバトン部員は会場である水戸へ向かう。西条も愛車ジムニーを駆り水戸へやって来ていた。海岸に車を停めトランペットを吹く西条の前に操が現れる。西条は実の母親に会いに行く決心をしていた。ここからは鹿島灘も近い。彼は操にも一緒に来るように言う。そして弘二(森田健作)のことで操に話したいこともあるというのだ。鹿島灘で、家から出てきた母の後を追っていくと、あるコーヒーショップに着いた。母はそこの経営者であるらしい。西条の姿を認めると、母は店の外に出て来た。

海に向かって、幼い頃子守唄代わりに母が歌っていた「赤とんぼ」をハーモニカで吹く西条。彼は母と晴れやかな気持ちで対面することが出来た。そして、高校生になった弟のケンジとも再会する。

その夜、西条は母子で楽しいひと時を過していたが、電話の応対をしているケンジの言葉に、耳を疑った。「親父?」…西条は母から、6年前に再婚していたことを聞かされショックを受ける。幼いケンジを抱えて、女が生きていくのがどんなに大変か、あなたにも分かるでしょう・・・母の言葉を聞いたとき、西条が今日まで胸に抱いて来た美しい幻影はもろくも崩れた。

夜、操を乗せて猛スピードでジムニーを飛ばしながら、西条は思いの丈を操にぶちまけた。

「俺にはやっぱりお袋なんていないんだ。お袋とケンジを呼んで3人水入らずで暮らすのが、俺のこの10年たった一つの夢だった。そのためにスナックも開いた。それがどうだ・・・。ハハハ!10年!この10年は俺にとって一体何だったんだ!・・・ああ、お前は何をして来たのだと、吹き来る風が私に言う――!」

ジムニーのエンジンにトラブルが起こり、西条はブレーキを踏んだ。そして西条は、今日もう一つ明らかにすべきこと、即ち弘二と操の関係について彼女に問うた。

西条「君は小林が好きなのか」

操「そんなこと、あなたに聞く権利があるの?」

西条「ある!俺も君が好きだからだ。俺は今度のことで、はっきり君が好きになったんだ。小林と俺と、どっちが好きだ!」


だが操は答えない。西条は弘二をこの場へ呼び出すことを決意、彼は深夜にも関わらずホテルの弘二に電話をかけ、夜明けまでに来なければ操を奪うと宣告した。電話を受けた弘二は、試合当日の身であり、十分な睡眠を取っておかねばならない。麻里にも止められるが、熟慮の末、弘二は西条の挑戦を受け現場に向かった。

夜明け、操と西条の前に弘二が現れた。

弘二「…俺はお前を、もう少しましな奴だと思っていた。本当のお母さんに会いに行ったまではいい。だが、お母さんが再婚してちゃんとやっているのをどうして素直に喜んでやれないんだ」

西条「お前なんかに俺の気持ちが分かるものか」

弘二「ああ分からない。その憤懣を吉川君に向けるような女々しい奴の気持ちはな!」

西条「言ったな・・・!」


空手の構えを見せる西条。操の目の前で、弘二と西条の激しい決闘が繰り広げられる。だが決着は付かず、やがて力を使い果たした二人は天を仰いで砂浜に倒れた。西条が口を開いた。

西条「早く行けよ…。朝の体操は終わった…今日は試合だろう」

弘二「…ああ、気分がすっとしたところで試合だ」


西条は立ち去った。だが弘二は、起き上がろうとしたところで左肩の激痛に顔を歪めた。

「しまった・・・!肩を・・・」


MEMO
今回も西条信太郎のカッコ良さが全編に溢れ、主役である弘二を完全に食ってしまっています。彼のテーマ曲「太陽と渚のブルース」も実に印象的。

バトン部の部室で、西条の噂をしている女生徒たち。佐々木英子(大谷照代)は、上はセーラー服、下はバトン部のユニホームという変な格好。はしゃいでいる部員たちをよそに、一人ポツンと靴下を履く操を俯瞰で捉えたショットがなぜか印象に残りました。

校庭で操とぶつかった西条がふと漏らした言葉「意外とボインなんだな、君は」・・・これをあのニヒルな表情で言う(笑)。

藤宮あずさ先生(武原英子)が読む英語の極端な巻き舌発音、うーん・・・。

コーヒーショップ「ザ・サーフ」のウエイトレス、顔がはっきりとは映りませんが、その体型、声から島田淳子(浅野真弓)さんであると断言して良いでしょう。

西条は中原中也の詩を愛するロマンチストでもあります(彼の店には詩集が置いてある)。10年間の思いを胸に訪れた母の港町で、再婚という思いもよらぬ事実に直面し、彼の心は大きく揺れ動く。操を乗せてジムニーを疾走させるシーン、詩の一節が実に印象的に使用されています。

これが私の故里だ
さやかに風も吹いてゐる
    心置なく泣かれよと
    年増婦の低い声もする

あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ


(中原中也詩集『山羊の歌』所収「帰郷」より)

ちなみに、34話「星の広場に集まれ!」に登場する青葉高校定時制の生徒・永野久美(岡田由紀子)も中原中也を愛読しています。

西条の弟・ケンジ役の中森重樹さんは、サン・ミュージックの相沢社長自らがスカウトしたという新人歌手。相沢社長は、森田健作さんを芸能界へ誘った人物でもあり、そもそもサン・ミュージックというプロダクションの名前は、森田健作さんが太陽のように明るいのが由来とのこと(「テレビジョンドラマ」誌1985年3月号、森田健作インタビュー)。「おれは男だ!」ゲスト出演もその辺りの縁でしょう。

中森重樹さんは昭和29年12月1日佐渡島の生まれ、元漁師という異色の経歴を持つ。デビュー曲は「平凡」誌上で一般公募され、選ばれたのが「太陽もえてる青い空」。「重樹」が本名のはずですが、今回は「重保」とクレジットされています。(参考文献 「平凡」1971年6、7月号)




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